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その溶接、誰が決めた? — BeadX Journal #006
BeadX Journal #006 Laser Japan Deep Dive

その溶接、誰が決めた?

6kW のレーザーは、メーカー公称で炭素鋼を 10mm 以上溶かせる。ロボットに載せれば、溶け込みの深さを溶接しながらミクロン単位で測ることさえできる。
それでも現場は、今日も TIG のトーチを握っている。止めているのは技術ではなかった。
2026-08-08  |  JAPAN  |  レーザーとアーク × 工法は誰が決めているのか

何が起きたか

今号は、ニュースではなく「決め方」を取り上げる。きっかけは、規格だった。日本溶接協会は 2025 年 10 月、溶接の安全衛生規格 WES 9009 の第 7 部として「レーザ溶接・切断」を制定した。手に持って使うレーザー加工機の広がりを受けた整備である。安全の規格は、こうして揃いつつある。ところが調べていくと、奇妙な空白に行き当たった。「その人がレーザー溶接をできる」ことを証明する国内の技能資格が、いまも見当たらないのだ。

普及の方は、待ってくれていない。中国製ハンドヘルドレーザー溶接機は、編集部が実在を確認できたメーカーだけで 41 社ある。安さの源流は光源だ。かつて欧米メーカーから輸入していたファイバーレーザーの光源を、中国メーカーがほぼ置き換えた。中国国内では、中国の最大手が海外の首位メーカーを抜いて市場シェア 1 位になり、中低出力帯の中国製比率は 98% を超えたと中国の業界メディアは伝えている。光源が安くなれば、完成機も安くなる。日本市場では中国製ベースの完成品が 1500W クラスで 165〜250 万円、対して純国産は 1,200 万円を超える(編集部調べ)。国内ブランドの完成機にも、中国製の光源や部品を採用する例が出ている。

性能も足りている。 市販のハンドヘルドの上限は 6kW で、炭素鋼・ステンレスなら 10〜12mm まで溶接できるとメーカーは公称する。さらにロボットや据置の設備なら、溶け込みの深さを溶接しながら測ることもできる。加工ビームと同軸に計測光を入れて、穴の底を読む。最大 70kHz で測りながら、レーザー出力をリアルタイムで制御する装置や、深さ 40mm 超をミクロン精度で読む装置が既に売られている(それぞれ別の製品である)。アーク溶接には、これに相当する市販の手段が見当たらない。

ただし、この目は手には付かない。 同軸の光学系が必要なので、手に持って動かすトーチには載らない。 深さを測れるのは、機械が持ったときだけである。

それでも、置き換わらない。 編集部が現場で聞いた話は、いつも同じところに戻ってくる。「レーザーの方が楽なのは分かっている。でも、それを説明して回るのが大変だ」。今号はそこを掘った。

参考:日本溶接協会 WES 9009-7(2025-10-01 制定)/溶接技能者資格制度/ISO 15614-11:2025・ISO 14732:2025
※ 詳細な出典は記事末尾へ
今日の論点
溶接の工法は、誰が決めているのか。

編集部の議論

BeadX Journal 編集部:ツナギ編集長・ハジメ・タツさん・葵博士・レイ
ツナギ

今日は珍しく、新製品も新しいロボットも出てきません。テーマは「決め方」です。まずハジメくん、率直にどう思いますか。レーザーの方が楽だと分かっていて、なぜ変わらないんでしょう。

ハジメ

正直、不思議でした。うちみたいな小さいところでも「あれ便利らしいよ」という話は出るんです。でも誰も買わない。値段の問題かなと思っていたんですが、中国製なら 200 万円くらいですよね。ロボットを入れるより全然安い。

レイ

値段は理由じゃないです。もっと厄介なものが挟まっています。説明のコストです。

ハジメ

説明、ですか。

レイ

新しい工法で作ったものを、誰かに納得させないといけない。元請けかもしれないし、設計部かもしれないし、お客さんかもしれない。「今までと違う方法でやりました、大丈夫です」を証明する。この手間が、レーザーで得られる楽さより大きいと、人は動きません。

タツさん

そこは俺も見てきた。電力の仕事をやってる知り合いに「レーザー使わねえのか」と聞いたことがある。返ってきたのは「図面にそう書いてあるから無理だ」だ。図面がアークで指定してりゃ、現場の判断でレーザーには変えられねえ。

ハジメ

図面って、そこまで書いてあるんですか。

タツさん

仕事によるな。ちゃんとしたところは工法まで指定してくる。溶接屋は指定された通りにやる。それが仕事だ。

葵博士

補足すると、技術側は既にかなり解けているんです。出力は足りています。強度も、理屈の上では問題ありません。

ハジメ

強度、大丈夫なんですか。レーザーって細いですよね。アークみたいに幅が出ないのに。

葵博士

そこは誤解されやすいところで、強度を担保しているのは「幅」ではなく「のど厚」です。 すみ肉溶接の断面で一番薄いところの寸法。これに溶接長を掛けたものが、強度計算の基礎になります。

ハジメ

のど厚って、溶け込みの深さのことですか。

葵博士

違います。ここは混同しやすいんですが、のど厚は断面の寸法、溶け込みは入り方です。等脚のすみ肉なら、のど厚は脚長の約 0.7 倍。そして溶接法と試験で裏付けた場合には、ルートを超えて入った溶け込みの分を有効のど厚として上乗せできます。

レイ

それ、規格でも認められてるんですか。

葵博士

認められています。アメリカの鋼構造の設計仕様には、サブマージアーク溶接の深い溶け込みを認めて、有効のど厚を上乗せする規定が既にあります。つまり「深く入った分を強度として数える」枠組み自体は、もう存在するんです。

タツさん

じゃあ何が問題なんだ。

葵博士

2 つあります。1 つ目は日本の設計が脚長ベースだということ。板厚に応じて最小の脚長が決まる作りになっている。細くて深いビードは、この物差しに素直に載りません。 載せるには、施工法の確認試験で個別に裏付ける必要があります。

レイ

出た。それが説明コストの正体ですね。

葵博士

2 つ目は疲労です。静的な強度は断面で決まりますが、繰り返し荷重で壊れるかどうかは、形で決まります。

ハジメ

形、ですか。

葵博士

止端、つまりビードと母材が交わる際のところです。そこの曲がりが急だと、応力が集中します。 研究では、止端の半径にはある臨界値があって、それを下回ると今度は表面の細かい波が主な応力集中源になることまで分かっています。

タツさん

細くて急な山ができると、そこから割れるってことか。

葵博士

はい。そして、もう 1 つ見るべき場所があります。反対側、ルートです。

ハジメ

根元の方ですか。

葵博士

荷重を伝えるすみ肉継手で溶け込みが足りないと、ルート側が亀裂の起点になりえます。 継手に沿って連続した内部の切欠きができるからです。面状の未融合は、応力の下で亀裂と同じように振る舞う。疲労設計の国際的な等級分けでも、この形のルート破壊は最も低い等級に置かれています。

タツさん

それは怖えな。しかも見えねえだろ、それ。

葵博士

表面の目視では分かりません。外はきれいに仕上がります。

タツさん

……そこだよ。俺が「幅が要る」って言いたくなるのは、そこなんだ。幅があれば、根元を確実に舐める。細けりゃ、狙いを外さねえことが前提になる。

レイ

つまり「幅」は強度そのものじゃなくて、外さないための保険だったということですか。

タツさん

そういうことだ。図面通りの鉄なんか来たことがねえからな。

葵博士

実は、そこを機械なら解決できるんです。加工ビームと同軸に計測光を入れて、穴の底までの深さを溶接しながら測る。 最大 70kHz で読みながら、その場でレーザーの出力を上げ下げする装置が既に売られています。

ハジメ

えっ、深さが見えるんですか。溶接しながら。

葵博士

見えます。深さ 40mm 超をミクロン精度で読むものもあります。アークにはこれに相当するものがありません。

タツさん

……じゃあ、それを付ければいいじゃねえか。

葵博士

手には付きません。

タツさん

は?

葵博士

同軸の光学系が要るので、手で持って動かすトーチには載らないんです。 深さを測れるのは、機械が持ったときだけです。

タツさん

……つまり、目が付いてるのは機械の方で、手に持ったら見えねえまま溶接するってことか。

葵博士

そうなります。

タツさん

だったらなおさら幅だよ。見えねえなら、外さねえようにするしかねえだろ。

レイ

ここ、整理すると効いてきますね。手に持つと安いし、どこでも行ける。でも見えない。機械に持たせると見えるようになるが、置き場所も治具も要る。 同じレーザーでも、持ち手が変わると別の道具になる。

そもそも図面が違う
ツナギ

ここで話を一段戻します。実は工法以前に、図面そのものが違うという指摘がありました。

タツさん

板厚があるなら、アークはクリアランスを取る。開先も取る。取らねえで溶接したら、反って割れる。多層盛りのビードに合わせて、寸法から段取りまで全部組んである。

葵博士

レーザーは逆です。入熱が小さいので反りの問題はほとんど出ません。代わりに、隙間があると成立しない。

ハジメ

真逆じゃないですか。

葵博士

真逆です。だからアーク前提で描かれた図面をそのままレーザーに持っていくと、レーザーの良さが消えます。 隙間を前提にした設計と、隙間がないことを前提にした設計は、別物なんです。

レイ

そこが一番おもしろいところですね。工法を変えるというのは、実は図面を変えるということだった。 そして図面を変えられる人と、変えられない人がいる。

ツナギ

編集部が実際に見てきたのは、まさにその分かれ目でした。

レイ

機械を作っているメーカー側なら、自社製品の図面なので自分で判断して変えられるんです。実際、「歪みがこれだけ少ないなら設計まで変えられる」と気づいて、TIG からレーザーに切り替えた例があります。前後の工程の調整が一番大変なので、そこを変えたいという動機は強い。

タツさん

だが下請けは変えられねえ。図面が来て、その通りにやる。

レイ

ここが構造です。説明コストは、技術で決まっていない。立場で決まっている。 発注元は説明する相手が社内なのでコストがほぼゼロ。下請けは説明する相手が元請けなので、コストが跳ね上がる。

ハジメ

じゃあ、溶接する人は何も決められないってことですか。

タツさん

そりゃ言い過ぎだ。

ハジメ

えっ。

タツさん

うちみたいな町工場は、そんな厳しい指定なんか来ねえ仕事の方が多い。「これ直しといて」で終わりだ。どうやるかは俺が決める。 40 年やってきた勘で決める。だからレーザーの方がいいと思えば、俺の判断で変えられるんだよ。

レイ

なるほど。裁量は「ある / ない」じゃなくて、仕事によって違うわけですね。整理するとこうなります。人命に関わる重要部品は仕様書が全部決める。元請けのいる仕事は図面が決める。そして縛りのない仕事は、溶接する人が決める。

溶接の工法を決めているのは誰か:仕様書が決める/図面が決める/溶接する人が決める
葵博士

面白いのは、規格が厳しいほど工法は動かず、規格が緩いほど職人が決められるという点です。

ハジメ

でも、その町工場でも置き換わってないですよね。裁量があるのに。

タツさん

……痛えとこ突くな。

レイ

それも説明コストで説明がつきます。元請けがいなくても、お客さんはいる。「今までと違うやり方でやりました」を納得させるコストは、規格がなくても発生する。

タツさん

そうだ。長年やってきた客に「今回から新しい機械で溶接します」って言うのは、それなりに勇気が要る。何かあったら全部こっちの責任だからな。

レイ

そして、ここが構造の一番厄介なところです。楽になるのは現場。説明して回るのも現場。しかも苦労の方が先に来る。 これでは動きません。

規格は、壁であり、堀でもある
ツナギ

ここまでは規格を「止めているもの」として話してきました。でも、逆の顔があります。

レイ

これ、構造としては医薬品で見たやつです。新しい薬を通すのは死ぬほど大変です。試験の連続で、何年もかかる。でも通って処方の対象になった瞬間、今度はその薬が処方され続ける。

ハジメ

入るまでが大変で、入ったら強い。

レイ

そうです。溶接でも同じことが起きています。ある補修の現場で、それまで TIG でやっていた仕事をレーザーに置き換えた例があります。腐食した環境で使われる鋳造部品の補修で、鋳物なので難しく、腐食した箇所の溶接は難易度が高い。

タツさん

それは厄介な仕事だな。

レイ

壊れると影響の大きい部品なので、置き換えには相当なプロセスがありました。試験を重ねてクリアして、ようやく承認を得た。そしてメーカーの補修仕様書に載ったんです。

ハジメ

仕様書に載ると、どうなるんですか。

レイ

その方法でしか作業できなくなります。 使う機種も、材料も、線径も、出力条件も、全部指定される。

タツさん

……ってことは、後から入ろうとしたら大変ってことか。

レイ

ハードルは段違いに上がります。入るのは死ぬほど大変。でも入ったら、今度は規格が自分を守ってくれる。 外にいる者にとっては壁、中に入った者にとっては堀です。

葵博士

制度には二面性があるということですね。共通言語を作れば説明コストが下がって普及が進む。人の門番を作れば参入コストが上がって減速する。 どちらになるかは、規格の書かれ方次第です。

ツナギ

そこで冒頭の話に戻ります。レーザー溶接の安全の規格は、揃ってきました。去年、安全衛生規格の第 7 部としてレーザ溶接・切断が制定されています。施工法の承認も、国際規格に枠組みがあります。それでも、「その人がレーザー溶接をできる」ことを証明する国内の技能資格は、見当たりません。

ハジメ

資格がないんですか。

ツナギ

アークにはあります。国内の溶接技能者の評価試験は、手溶接や半自動といったプロセスと姿勢で区分されていて、そこで技量が認証される。レーザーの区分は、探しても出てきませんでした。

葵博士

教育の形も非対称です。レーザー業務にも、厚生労働省の通達で安全衛生教育とレーザー機器管理者の選任が求められています。ただしアーク溶接には、その上に法令で時間数まで決まった特別教育があります。学科と実技で計 21 時間。レーザー溶接に、これに相当する法定の特別教育は確認できませんでした。

タツさん

おいおい。アークより危ねえだろ、あれ。

葵博士

危険の種類が違います。そしてレーザーの方が、気づきにくい。

ハジメ

気づきにくい?

葵博士

ハンドヘルドレーザーが使う近赤外の光は、目に見えません。そして水晶体がそれを網膜に集めてしまう。 熱による損傷は、ごく短い時間で起きます。

ハジメ

一瞬ってことですか……。

葵博士

問題はその後です。痛みも、視力の低下も、すぐには出ません。 そして損傷は元に戻りません。

タツさん

……アーク眼は、夜中に痛くて目が覚める。あれで「やっちまった」と分かる。

葵博士

はい。アーク眼は教えてくれます。レーザーは、何も教えてくれません。

タツさん

それが一番こええな。


Xデーまで、いま何合目?

Xデー=人型ロボットが実戦の現場で「溶接そのもの」を担う、世界初の日。
BeadX Journal は、その日までの道のりを毎号同じ物差しで定点観測します。
葵博士

今月は正直に言います。山は見ていませんでした。 人型ロボットが溶接に近づいた動きは、今月は確認できていません。

見ていたのは、山の斜面ではなく麓の道です。既にある技術が、なぜ現場に入っていかないのか。そしてそこで分かったのは、麓の道も規格でできているということでした。

10実戦投入第 1 号 = Xデー
9 品質・安全の認証クリア
8 人の監督付き・限定工程での試験運用
7 実環境でのテスト溶接
6 ラボで安定した連続溶接
5 ★ いまここ|人型プロトタイプ完成・初溶接前倒し
4 人型が溶接工の動き・判断をデータ化
3 非ヒト型の自律溶接が実環境で実証済〜進行中
2 AI 適応溶接(シームトラッキング)が実用化
1 固定アームロボが定型溶接を置き換え
現在地:5 合目(変わらず)

前号で「5 合目から上は、ほぼ全部が判断の斜面だ」と書きました。今月それに付け加えるなら、登る前に通行証が要るということです。判断ができるようになっても、その判断を誰かに認めてもらう手続きが別にある。

技術が解けることと、現場で使われることの間には、試験と承認と書類の距離がある。人型が溶接できるようになった日も、たぶん同じ距離が待っています。


前号の投票

前号の 1 問「あなたの仕事で、機械にいちばん渡したくない工程はどれですか」は、集計に足る票がまだ集まっていません。発表は票が集まった号に持ち越します。あなたの 1 票が「現場の世論」の最初の記録になります。投票は引き続き受付中です。

あなたの現場で、溶接の「やり方」を最終的に決めているのは誰ですか。
1自分(溶接する人)
2社内の設計・技術部門
3客先の図面や仕様書
4決まっていない・その都度
投票は Substack / X で受付中。結果と編集部の講評は次号で。あなたの現場の実感で選んでください。
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※BeadX Journal は、実在する製造業経営者が主宰しています。どのニュースを取り上げ、何を問い、どう見立てるか。そこには毎号かならず人の判断が入っています。編集部メンバーは AI キャラクターであり、実在の人物・団体とは関係ありません。議論は実在のニュース・公開情報に基づいていますが、各メンバーの発言は AI が生成した見解です。
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