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図面を見せたら、溶接した。 — BeadX Journal #014
BeadX Journal #014 Japan Physical AI Teaching

図面を見せたら、溶接した。

9 月 11 日、ファナックが「AI 溶接エージェント」を発表した。部品の図面を協働ロボットのタブレットのカメラで読み取り、電流や電圧などの溶接条件と、ロボットの動きを AI が自動で作る。同社の言葉は「ゼロ設定、ゼロ教示」。出荷開始は 12 月末の予定。
前号で歩いた展示会に、この機械も出ていた。溶接中の状態を見る技術と、溶接前の教示を減らす技術。それぞれ、人のどの仕事を担うのか。
条件出しと教示ができる熟練者が足りない。ファナックはそう書いている。では、教示の手間が減ったとき、人は何に時間を使うのか。今号は、そこを議論した。
2026-10-03  |  JAPAN  |  ファナック「AI 溶接エージェント」

何が起きたか

2026 年 9 月 11 日、ファナックは Google との協業で開発した「AI 溶接エージェント」を発表した。企業向けの生成 AI「Gemini Enterprise」を使い、アーク溶接で作る部品の図面を読み取って、使う材料と作る部品を理解し、電流・電圧などの溶接条件と、ロボットの動作プログラムを自動で生成する。同社の表現は「ゼロ設定、ゼロ教示」。図面の読み取りには協働ロボット CRX のタブレット型ティーチングペンダントに内蔵されたカメラを使うので、図面を読むための機器を現場に足す必要はない。オペレーターは、AI が作った条件と動きをそのまま実行することも、微調整してから溶接させることもできる。出荷開始は 2026 年 12 月末の予定で、9 月 16 日からの国際ウエルディングショーで実演された。

ファナックはリリースの中で、開発の理由をこう書いている。アーク溶接の条件出しやロボットの教示ができる熟練の溶接作業者は、日本でも世界でも不足していて、資材の長納期化の一因にもなっている。「世界の溶接作業者不足を最新の AI 技術で補う新商品」。会場のパネルには「溶接知識がなくても」の文字があった。

編集部が引っかかったのは、リリースに書いてあることと、書いていないことの間だ。図面を読んで条件と動きを作る、とは書いてある。作った条件が合っているかを誰が見るのかは、「微調整して溶接させることも可能」という一文から読むしかない。目の前の部材のばらつきをどう扱うかは、この発表だけでは分からない。熟練者の不足を補う機械に、微調整する人が要るのだとしたら、その人の時間は、何に使われるのか。

参考:ファナック ニュースリリース(2026 年 9 月 11 日)/Google Cloud 公式ブログ(2026 年 5 月 13 日)/BeadX 編集部の現地取材メモ(2026 年 9 月 16 日)
※ 詳細な出典は記事末尾へ
今日の論点
教示の手間が減ったら、人は何に時間を使うのか。

編集部の議論

BeadX Journal 編集部:ツナギ編集長・ハジメ・タツさん・葵博士・レイ
ツナギ

前号の展示会レポで、「溶けている所を、機械が見始めた」と書きました。その例が安川電機のロボットでした。今号は同じ会場で実演されていた、ファナックの「AI 溶接エージェント」です。まず葵博士、この機械は何をする機械ですか。

葵博士

順番に言います。まず段階。9 月 11 日に発表、9 月 16 日からの展示会で実演、出荷開始は 12 月末の予定。今回確認した資料では、お客さんの現場で継続して使った実績までは確認できません。次に中身。協働ロボット CRX のタブレットのカメラで部品の図面を撮る。Gemini Enterprise という Google の企業向け生成 AI が、その図面から材料と部品の形を理解して、電流・電圧などの溶接条件と、ロボットの動作プログラムを作る。オペレーターはそのまま溶接させてもいいし、微調整してからでもいい。ファナックのロボットにつながっていれば、どの溶接電源でも使えて、契約はファナックとの既存の枠組みの中でサブスクリプション形式。料金や支払いの周期は、今回の発表には書かれていません。

ハジメ

教示って、ロボットに動きを教える作業ですよね。

葵博士

品種が変わるたびに、どこをどの姿勢で、どの条件で溶接するかを人がロボットに覚えさせる作業です。その手間を減らすのが今回の狙いで、ファナックの言い方が「ゼロ設定、ゼロ教示」。教示の手間を減らす関連の技術は、以前から出願されています。CAD の形から加工箇所を自動で抜き出す装置、溶接線と、狙い角・前進角から溶接姿勢を決めてプログラムを作る装置、自動で作った経路と作業者が作ったロボットの経路を組にして学ぶ装置。ただし、それらの出願と今回の製品の具体的なつながりは、公表資料では確認できません。今回の発表が示した入口は、タブレットのカメラで図面を読み取ることです。

タツさん

図面通りの鉄なんか、来たことがねえ。

ツナギ

出ました。

タツさん

笑いごとじゃねえ。図面には板厚も脚長も書いてある。来た鉄は仮付けが開いてて、前の工程の熱で板が反ってる。条件出しってのは、図面を読む仕事じゃなくて、目の前の鉄を読む仕事だ。電流と電圧を決めて終わりじゃない。隙間を見て、姿勢を見て、板の汚れを見て、現物に合わせて条件を見直す。

葵博士

そこは正確に言っておきたい所です。リリースで分かるのは、図面から条件と動きを生成して、人が調整もできる、というところまでです。この製品が現物の隙間や反りをどう認識して補正するのか、その具体的な説明はありません。説明が無いから対応しない、とも言えません。ただ、今回発表された機能の入口は図面です。図面にない現物の状態をどう扱うかは、この発表だけでは分かりません。

発表で分かることと、まだ分からないこと
手間が減った分は、どこへ行くのか
レイ

これ、構造としては他の業界で見たやつです。機械加工の CAM が比較の手がかりになります。形のデータから工具の経路を作るソフトです。経路を作る手間が減ることと、その経路で狙った物を作れるかを確かめることは、分けて考えたい。溶接でも、条件を出す作業と、結果を引き受ける判断は同じではないと思います。

ハジメ

溶接でも、同じことが起きるんですか。

レイ

似た形にはなると思います。ただ、溶接では加熱と冷却で部材が変形します。機械加工でも現物への対応は必要ですから、単純に同じ道をたどるとは言い切れません。タツさんの「図面通りの鉄は来ない」は、その違いを言っています。

葵博士

私は、熟練者が足りない現場ほど、条件と動きの案を機械が作る意味はあると思います。案を一から作る手間が減れば、その分を確認や若手の指導に回せるかもしれません。どれだけ減るかは、まだ分かりません。

タツさん

空いた時間を全部、次の仕事に回したらどうなる。若手が条件を考える所まで飛ばして、確認だけ任せても覚えねえだろ。何を見て条件を変えたのか、教える時間は残すのか。

葵博士

でも、手間を残すだけで育つとも限りません。機械の案と自分の判断を比べて、違いを説明する教え方も考えられます。

ハジメ

出来上がった条件を確認するだけで、僕も条件出しを覚えられるんでしょうか。

レイ

お金の話で着地させます。誰がお金を払うか。提供はサブスクリプション形式ですが、料金や支払いの周期は今回の発表では分かりません。私が気になるのは、社内で確かめる人を置くのか、外から支援を受けるのかです。その負担も含めて、導入する現場の判断になると思います。

人には見せて、機械には図面を
ツナギ

ここで、Instagram の投票を 1 つ入れます。9 月 22 日の投票では、答えた 16 人のうち 13 人が、若手に教えるとき最初は「やって見せる」を選びました。「言葉で説明する」は 0 人。ただ、見せた後に何を説明するかまでは聞いていません。

タツさん

俺なら、まず見せる。ただ、見せただけで分かるとも思ってねえ。どこを見てほしいかは言うよ。

ハジメ

機械には図面を見せて、人には腕を見せる。どっちも「見せる」なんですね。

葵博士

今回の製品が入口にしているのは図面です。図面には、材料や形、必要な溶接の指示が書かれている。実際の部材の状態まで、すべて載っているわけではありません。人に見せるときは、その場の現物を一緒に見ている。同じ「見せる」でも、見せている物が違います。

タツさん

図面の読み方も教えるし、現物と違ってたらどこを見るかも教える。読めることと、使えることは別だ。

レイ

アメリカの金属加工設備の販売店が、この発表を受けて顧客向けに書いた文章があります。要約すると、ソフトはロボットの手の届く範囲を伸ばさないし、重い物を回転させないし、治具や仮付けや検査を無くさない。部材の大きさや位置決めが生産の詰まりになっているなら、AI の発表だけを理由に必要な設備投資を先送りしない、という主張です。自社で扱う溶接セルの検討を勧める、売る側の文章ですが、機械が来ても残る仕事の一覧として読めます。

ツナギ

まとめます。ファナックの機械は、図面を読んで条件と動きを作る。現物のばらつきと、作った条件の確認をどう扱うかは、発表からは分からない。手間が減れば教える時間を作れるのか。それとも、条件を考える経験が減るのか。そこはまだ答えが分かれています。ここまでにします。


Xデーまで、いま何合目?

Xデー=人型ロボットが実戦の現場で「溶接そのもの」を担う、世界初の日。
BeadX Journal は、その日までの道のりを毎号同じ物差しで定点観測します。
葵博士

山は動いていません。5 合目のままです。今号の機械は人型ではなく、据え付けて使う協働ロボットです。編集部のハンドブックで言う第 1 層(固定セル型)の話で、その層の中で新しい機能が発表された、という位置づけです。

ただ、記録しておきます。第 1 層の中で、図面から条件と動きまで作り、教示をゼロにする、とメーカーが言う製品が発表された。教示を減らす取り組み自体は、同じ会社が 2024 年の展示会で経路の自動教示を見せていたように、以前からあります。今回はその入口が図面になった。人型がいつ来るかとは別に、「人がロボットに教える」という仕事の形が変わるかどうかを見ていく号として残します。出荷開始は 12 月末の予定。現場で継続して使われた実績は、今回の資料では確認できていません。

10実戦投入第 1 号 = Xデー
9 品質・安全の認証クリア
8 人の監督付き・限定工程での試験運用
7 実環境でのテスト溶接
6 ラボで安定した連続溶接
5 ★ いまここ|人型プロトタイプ完成・初溶接前倒し
4 人型が溶接工の動き・判断をデータ化済
3 非ヒト型の自律溶接が実環境で実証済〜進行中
2 AI 適応溶接(シームトラッキング)が実用化済
1 固定アームのロボットが定型溶接を置き換え済
現在地:5 合目(変わらず)

人型を待っているあいだに、教示がゼロになる、とメーカーが言い始めた。図面に書いてあることは、機械が読む。図面に書いていないことを、誰が持っているのか。その答えを、現場から集めていきます。


前号の投票

前号の 1 問「溶接中、いちばん見ているのは、どこですか?」。

答えてくれたのは 12 人。溶融池の先端が 5 人、狙っている位置が 4 人、溶融池の幅が 3 人。「出来たビード」は 0 人でした。

安川電機のロボットが見ていたのは溶融池の幅でしたが、人で幅を選んだのは 12 人中 3 人。一番多かったのは溶融池の先端で、次が狙っている位置。どちらも溶融池の前側、これから溶ける所に近い場所です。出来たビードを選んだ人はいませんでした。溶接中に見ているのは 12 人全員が「溶けている最中」のどこかで、結果を見ている人はいなかった、ということになります。人数が少ないので傾向とまでは言えませんが、機械が測っていた「幅」と、人が見ている「先」は、同じ溶融池でも違う場所でした。今号の機械は、図面を読んで条件を作ります。その条件で溶け始めたあと、先端を見ながら手を直すのは、まだ人の仕事です。タツさんの感想は「俺も先だな。幅は、終わってから見りゃ分かる。溶けてる最中に見るのは、次に溶ける所だ」。

ふだんの溶接で、最初の電流などの設定値は、主に何をもとに決めていますか?
1自分の経験・試し溶接
2先輩・上司など、他の人の指示
3条件表・作業標準
4機械の自動提案
投票は Substack / X で受付中。結果と編集部の講評は次号で。あなたの現場の実感で選んでください。
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※BeadX Journal は、実在する製造業経営者が主宰しています。どのニュースを取り上げ、何を問い、どう見立てるか。そこには毎号かならず人の判断が入っています。編集部メンバーは AI キャラクターであり、実在の人物・団体とは関係ありません。議論は実在のニュース・公開情報に基づいていますが、各メンバーの発言は AI が生成した見解です。
BeadX Journal|Every Saturday 10:00

次の号は、土曜 10 時に届きます。

溶接とものづくりのニュースを毎週ひとつ取り上げ、5 人の編集部が議論します。最後に読者投票が 1 問。無料で、登録はメールアドレスだけ。いつでも解除できます。

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