「今日の材料と姿勢なら、どの棒(ワイヤ)を使うか」に即答するための比較ページです。被覆アーク溶接棒(軟鋼〜490MPa 級)と半自動ワイヤを、JIS 分類と現場の定番銘柄で整理しました。
※ 銘柄のスペックは各メーカーのカタログが正本です。本ページの数値・分類は 2026 年 8 月時点で Web 上の公開情報を確認したもの。「要確認」注記のある箇所は使用前にカタログで裏を取ってください。
The Basicsまず全体像:被覆アーク溶接棒は 4 系統
軟鋼用の被覆アーク溶接棒は、被覆剤(フラックス)の系統で性格が決まります。JIS Z 3211 の分類記号と合わせて覚えると、初見の棒でも性格が読めます。
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| 系統 | JIS Z 3211 | AWS | 一言でいうと |
|---|---|---|---|
| イルミナイト系 | E4319 | E6019 | 日本生まれの |
| ライムチタニヤ系 | E4303 | E6013 相当 | 作業性と |
| 高酸化 | E4313 | E6013 | アークが |
| 低水素系 | E4316 | E7016 相当 | 耐割れ・ |
※ 旧 JIS 表記(D4301、D4303、D4313、D4316)の時代のカタログ・教科書も現役で流通しています。「D→E」に読み替えれば同じ系統です。
By Type系統別の使い分け
イルミナイト系(E4319)
- 板厚 20mm 程度までの軟鋼の全姿勢溶接に幅広く対応。突合せもすみ肉もいける
- スラグの被りとビード外観が良く、X 線性能(内部品質)も安定
- JIS 検定(技能者評価試験)の定番でもあり、練習用としても王道
- 弱点:低水素系ほどの耐割れ性はない。高張力鋼・厚板の強度部材には使わない
ライムチタニヤ系(E4303)
- 軽量鉄骨・車両・建築の組立など「量をこなす」現場の定番
- 再アーク性(アークの再始動)とスラグはく離が良く、タック→本溶接のテンポが速い
- ヒュームが比較的少なめの銘柄が多い
- 弱点:イルミナイト系より溶込みが浅め。厚板の 1 パス目には向かない
高酸化チタン系(E4313)
- アークが柔らかくスパッタが少ない。薄板の外観重視・立向下進に強い銘柄がある
- 弱点:溶着金属の機械的性質は他系統より劣る。強度計算に入る部材には使わない
低水素系(E4316 / E4916)
- 溶着金属の拡散性水素が少なく、低温割れに強い。厚板・拘束の大きい継手・490MPa 級高張力鋼はこれ一択
- E4316 は軟鋼〜430MPa 級、E4916 は 490MPa 級高張力鋼用
- 造船・橋梁・圧力容器など、強度と品質が問われる構造物の主力
- 弱点:アークスタートが難しく、運棒の練習が要る。そして乾燥管理が必須
乾燥(再乾燥)の目安
| 系統 | 再乾燥の |
|---|---|
| イルミナイト系・ | 70〜100℃ で |
| 低水素系 | 300〜400℃ で |
※ 温度・時間は一般的な目安。銘柄ごとの指定値(要確認)に必ず従ってください。低水素系を乾燥せずに使うと、水素量が増えて割れのリスクがそのまま上がります。
Brand Map現場の定番銘柄マップ(神戸製鋼・日鉄溶接工業)
日本の現場で名前が通っている代表銘柄です。同じ JIS 分類でも銘柄ごとに性格が違い、無条件で置き換えられるとは限りません。切り替え時は要試験・要確認。
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| 系統 | JIS | 神戸製鋼 | 日鉄溶接 | 現場での |
|---|---|---|---|---|
| イルミナイト系 | E4319 | B-17 | A-17 | 溶接性 |
| イルミナイト系 | E4319 | B-14 | A-14 | バランス型。 |
| イルミナイト系 | E4319 | B-10 | A-10 | 作業性 |
| ライムチタニヤ系 | E4303 | Z-44(ZERODE-44) | NS-03Hi | 「溶接棒の |
| 高酸化 | E4313 | B-33 | S-13Z | 薄板向け |
| 高酸化 | E4313 | RB-26 | FT-51 | 立向下進 |
| 低水素系 | E4316 | LB-26 | S-16 | 軟鋼の |
| 低水素系 | E4316 | LB-47 | (相当品は | 全姿勢の |
| 低水素系 | E4916 | LB-52 | L-55 | 490MPa 級高張力鋼の |
| 低水素系 | E4948(要確認) | LB-52T | TW-50 | 仮付け・ |
補足を 3 つ。
1 つ目、B-14 と Z-44 は「とりあえずこれ」と言われるほどの汎用定番。迷ったら現場の先輩が使っている方に合わせて問題ない。
2 つ目、LB 系(低水素)は棒径・電流条件がシビアな分、仕上がりの品質が別格。検定や本番構造物で使うなら練習段階から LB で慣れておくのが近道。
3 つ目、AWS 表記(E6013、E7016 など)は輸入機材のマニュアルや海外資格でよく出ます。JIS との対応(E4303 ≒ E6013、E4916 ≒ E7016)を頭の隅に置いておくと図面・仕様書で迷いません。
MAG Wire半自動ワイヤの使い分け(ソリッド/フラックス入り)
半自動(マグ溶接)はまずワイヤの種類で分かれます。
ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)
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| JIS | 電流域 | 姿勢 | シールドガス | 代表銘柄 |
|---|---|---|---|---|
| YGW11 | 大電流 | 下向・ | CO2 | 神鋼 |
| YGW12 | 小〜中電流 | 全姿勢 | CO2(混合ガスも | 神鋼 |
| YGW15 | 大電流 | 下向・ | Ar+CO2 混合ガス | (銘柄は |
| YGW16 | 小〜中電流 | 全姿勢 | Ar+CO2 混合ガス | (銘柄は |
- YGW11 と YGW12 の成分上の違いは Ti(+Al、Zr)の有無。YGW11 は Ti 等の添加で大電流域のアークが安定し、ビード形状が良い。厚板を下向きでガンガン流す用
- YGW12 は薄板〜中板の全姿勢用。街の鉄工所の半自動機に巻いてあるのはだいたいこれ
- 混合ガス(MAG)ならスパッタがさらに減る。ガス代と相談
フラックス入りワイヤ(FCW、JIS Z 3313)
- 代表銘柄:神戸製鋼 DW-100(JIS Z 3313 T49J0T1-1CA-U、AWS E71T-1C)。全姿勢用ルチール系(スラグ系)の定番で、造船・橋梁・鉄骨で広く使われる
- 特徴:アークが柔らかくスパッタが少ない。ビード外観が良く、スラグが全姿勢の溶融池を支えてくれるので立向・上向が楽
- 亜鉛メッキ鋼板向けの派生(DW-Z100 など)もある
- 弱点:ワイヤ単価はソリッドより高い。スラグ除去の手間が増える
ソリッドか FCW か
| 判断軸 | ソリッド | FCW |
|---|---|---|
| ワイヤ | 安い | 高い |
| 全姿勢の | 普通 | 良い |
| ビード | 普通 | 良い |
| スラグ | ほぼ | 毎パス |
| 向く | 下向き | 立向・ |
Reverse Lookup逆引き表:条件からの選定
「板厚・姿勢・母材・優先事項」から引く早見表です。最終決定は WPS(溶接施工要領書)と監督者の指示が優先。
被覆アーク溶接棒
| 条件 | 推奨 | 代表銘柄 |
|---|---|---|
| 軟鋼・ | ライムチタニヤ系 | Z-44、 |
| 軟鋼・ | イルミナイト系 | B-14、 |
| 軟鋼・とにかく | ライムチタニヤ系 | Z-44、 |
| 立向下進で | 高酸化 | RB-26 |
| 厚板・ | 低水素系 | LB-26、 |
| 490MPa 級高張力鋼 | 低水素系 | LB-52、 |
| 仮付け | 仮付け用低水素系 | LB-52T、 |
| JIS | イルミナイト系+低水素系 | B-14+LB-47 が |
| 屋外・ | 被覆アークそのものが | 上記から |
半自動ワイヤ
| 条件 | 推奨 |
|---|---|
| 厚板・ | YGW11(MG-50、 |
| 薄板〜中板・ | YGW12(MG-50T、 |
| スパッタを | 混合ガス化 |
| 立向・ | FCW |
| 亜鉛メッキ | メッキ |
| コスト最優先・ | ソリッド |
Cheat Notes覚えておくと得する 3 行
1 つ目、棒は「系統」で選び、「銘柄」で仕上げる。JIS 分類が同じでも銘柄で性格が違う。
2 つ目、低水素系は乾燥までが銘柄選び。300〜400℃ の再乾燥を飛ばした LB は LB の性能が出ない。
3 つ目、半自動は「電流域と姿勢」でワイヤが決まる。厚板下向きは YGW11、それ以外はまず YGW12、姿勢物の仕上がりは FCW。
Standards参考規格
- JIS Z 3211(軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用被覆アーク溶接棒)
- JIS Z 3312(軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ)
- JIS Z 3313(軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ)
- AWS A5.1 / A5.20(米国規格。輸入機材・海外案件の読み替え用)
図面の読み方は姉妹ページの溶接記号チートシートへ。「図面を読む→棒を選ぶ」の順で使ってください。
棒を選んだ、その次は?
低水素系の溶接棒。箱を開けたまま置いていたけれど、見た目は乾いている。あなたなら、使う前に何を確かめますか?
棒の選び方から、現場での判断へ。BeadX の「現場の 10 問」で、ほかの場面も考えてみませんか。
現場の 10 問で腕試しする出題内容は回によって変わります。資格試験の模擬問題ではありません。
